弁護士に依頼した。
クレジットカードは消えた。
借金の返済も止まった。
そして、
お金が残るようになった。
生活が、
急に静かになった。
これまで毎月、
給料が入って、
借金を返して、
足りなくなって、
また借りる。
そんなことを何年も繰り返していたのに、
それが突然なくなった。
暇である。
借金の返済というものは、
なくなると意外とやることがない。
クレジットカードを見に行く
弁護士からは、
すぐに債権者へ受任通知を送ると聞いていた。
もちろん、
「送りました」という連絡を逐一もらうわけではない。
ちゃんと届いたのかな。
少し気になった。
そこで、
以前使っていたクレジットカードの会員サイトを、
試しに開いてみた。
ログインはできる。
ただ、
いつも見ていたような情報が、
グレーアウトしている。
使えない。
おお。
なんか止まってる。
そこでようやく、
「本当に受任通知が行ったんだな」
と実感した。
ちなみに、
僕はそれまで返済を滞納していたわけではない。
足りなければ、
別のところから借りてでも返していた。
そのため、
督促電話が鳴り続けていたわけでもない。
だから、
僕にとっての変化は、
「電話が鳴らなくなった」
ではなかった。
毎月必ずやってきた返済そのものがなくなった。
こっちの方が大きかった。
10月、まだ一社いた
とはいえ、
契約した瞬間に、
すべてが完全停止したわけではなかった。
10月。
弁護士から連絡が来た。
一社だけ、
まだ請求を止められない可能性があるので、
今月も口座の資金を移しておいてください、
という内容だった。
了解。
移す。
以上。
この頃の僕は、
弁護士に言われたことを、
淡々とやっていた。
資料を出してください。
出す。
お金を移してください。
移す。
弁護士費用を払う。
払う。
それだけだった。
あとは、ほとんど何もない
契約のときに言われた資料も提出した。
家計の記録。
必要な書類。
言われたものを揃えて送る。
それが終わると、
弁護士とのやり取りは、
ほとんどなくなった。
本当に、
ほぼ何もない。
毎月、
弁護士費用だけは払う。
契約時には、
弁護士費用の支払いが終わったら、
個人再生の申立てに進むと聞いていた。
だからたまに、
「あと何回だっけ」
とは思った。
でも、
毎日気にしていたわけではない。
生活が、
あまりにも楽になったからである。
借金など幻
借金は、
まだある。
約250万円。
数字としては、
当然残っている。
しかし。
請求されない。
返済しない。
カードも使わない。
給料は残る。
普通に生活できる。
借金など幻では?
もちろん、
幻ではない。
きっちり存在している。
しかし体感としては、
かなり遠くなった。
それまで借金というものは、
毎月、
僕の給料日に現れていた。
「こんにちは」
とやってきて、
15万円とか20万円とか持っていく。
存在感がすごい。
それが、
来なくなった。
借金は数字として残っているのに、
日常生活からは急に消えた。
だから、
かなりホッとしていた。
ちょっと金を使うようになる
そして人間、
余裕ができるとどうなるか。
使う。
匿名男、
早い。
飲み会。
人付き合い。
ちょっとした外食。
もちろん、
昔のように借金してまで遊ぶわけではない。
手元にあるお金の範囲ではある。
でも、
今までずっと、
「金がない」
が前提だった。
そこへ突然、
使えるお金ができた。
何度か、
交際費が多くなった月もあった。
そのときは楽しい。
あとから家計を見る。
使ってるな。
そして、
少し不安になる。
「個人再生する人間が、
こんなに飲み会とか行って大丈夫なのか?」
「あとで何か言われない?」
また検索する。
ChatGPTにも聞く。
安心する。
しばらくする。
また金を使う。
学習しているようで、していない。
ただ、
以前と決定的に違うことがあった。
足りなくなっても、
もう借りられない。
カードもない。
だから、
使えるのは、
本当に持っているお金だけ。
これは大きかった。
二人で暮らすことにした
年末が近づいた頃、
パートナーと同居について話すようになった。
一人で住むより、
二人で住んだ方が、
生活費の効率がいい。
これは、
二人とも同じ考えだった。
家賃。
光熱費。
その他の生活費。
それぞれが一人で払うより、
一緒に暮らした方が負担を減らせる。
そこで、
一緒に暮らすことにした。
引っ越しにあたっては、
ここでもパートナーに助けてもらった。
ありがたい。
そしてまた、
自立とは。
という気持ちは少しある。
ただ、
生活費はかなり安定した。
僕が一人暮らしをしていた頃に払っていた家賃と、
ほぼ同じくらいの負担で、
今度は、
家賃だけでなく光熱費まで含めて生活できるようになった。
これは大きかった。
借金の返済が止まる。
生活費も下がる。
給料は変わらない。
匿名男の家計、
急に強くなる。
本当に進んでる?
一方で、
小さな不安はあった。
弁護士とは、
ほとんど連絡を取っていない。
僕は毎月、
ちゃんと弁護士費用を払っている。
でも、
個人再生そのものは、
まだ申立てていない。
年末には、
パートナーとの同居を始めたことも、
弁護士へメールで伝えた。
返信はなかった。
とはいえ、
「まあ、見てはいるだろう」
くらいに思っていた。
急ぎの用件でもない。
何か問題があれば、
向こうから連絡が来るだろう。
なので、
そのときは特に気にしなかった。
ただ、
弁護士とのやり取り自体がほとんどないので、
たまに思う。
これ、本当に進むんだよな?
契約した。
資料も出した。
費用も払っている。
同居のことも伝えた。
何も問題は言われていない。
だから、
進んでいるはずである。
ただ、
目に見えるイベントが、
何もない。
個人再生について、
思い出したようにGoogleで調べる。
申立て。
開始決定。
個人再生委員。
再生計画。
知らない単語が並んでいる。
まだ先の話だ。
そのうち弁護士から、
何か連絡が来るだろう。
そう思っていた。
何もないという平和
2025年の秋から冬。
僕は、
毎月弁護士費用を払った。
カードはない。
借金の返済もない。
生活費は下がった。
お金も残る。
たまに、
「個人再生ってこのあとどうなるんだっけ」
と検索する。
でも、
ブラウザを閉じれば、
いつもの生活に戻る。
仕事へ行く。
帰ってくる。
絵を描く。
飲みに行く。
パートナーと生活する。
借金250万円。
どこ行った。
もちろん、
いる。
でも、
とても静かだった。
ずっと金銭の不安が頭の片隅にあった僕にとって、
この数か月は、
かなり久しぶりに、
お金のことを心配せず普通に生活できた時間
だったと思う。
弁護士費用も、
あと少し。
払い終われば、
いよいよ申立て。
このまま、
淡々と個人再生が進んでいく。
そう思っていた。
2026年2月10日。
仕事から帰ると、
パートナーが言った。
「何か届いてるよ」