2026年2月10日。
仕事から帰った。
パートナーが言った。
「何か届いてるよ」
テーブルを見る。
角に、
茶色い封筒が置いてある。
分厚い。
パンパンである。
普通の郵便物ではない。
開ける前から、
なんとなく不穏だった。
差出人を見る。
裁判所。
嫌な予感しかしない。
封を開けた。
一番上の書類を見る。
そこには、
こう書いてあった。
訴状。
……。
\ 訴 状 が 来 た !!! /
私、被告になる
心臓が、
一気にバクバクし始めた。
読み進める。
原告。
見覚えのある会社名。
もちろんある。
僕がお金を借りた会社である。
そして、
被告。
僕の名前。
間違いない。
僕である。
さらに読む。
書いてある内容にも、
身に覚えがある。
というか、
身に覚えのあることしか書かれていない。
借りた。
返済していた。
弁護士に依頼した。
返済を止めた。
そして、
訴えられた。
どうやら、
知らないところで知らない事件に巻き込まれたわけではない。
全部、僕の話だった。
それが、
裁判所の書類になっている。
急に怖い。
出頭してください
さらに書類をめくる。
出てきた。
口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状。
名前がもう怖い。
一枚の書類に、
強そうな漢字が多すぎる。
読んでみる。
裁判所へ出頭する日が書いてある。
答弁書を提出するようにも書いてある。
待って。
僕がやるの?
答弁書。
何を書くの。
そもそも、
答弁書とは何だ。
裁判所にも行くのか。
仕事は?
休むの?
この日に休める?
というか、
出なかったらどうなる?
急に、
知らない予定が僕のスケジュールへ追加された。
裁判。
Googleカレンダーに入れる種類の予定ではない。
「恐ろしいことになった」
パートナーに言った。
「恐ろしいことになった」
「訴訟が届き、私は被告になってしまった」
すると、
パートナー。
大爆笑。
なぜだ。
こちらは、
人生で初めて被告になっている。
笑うところではない。
ただ、
そのあと、
「いざとなったら自分がいるから大丈夫」
というようなことを言ってくれた。
僕は全然、
大丈夫ではない。
心臓はまだ、
バクバクしている。
でも、
パートナーがあまりにも笑うので、
少しだけ冷静になった。
世界は、
まだ終わってはいないらしい。
まず、弁護士
普段の僕なら、
分からないことがあれば、
すぐGoogleである。
しかし、
このときは違った。
これはさすがに、
先に弁護士だろう。
その日のうちに、
メールした。
訴状が届いたこと。
どうすればいいのか。
そして、
以前伝えた引っ越し後の住所についても、
ちゃんと連絡が届いているのか。
送信。
あとは、
返事を待つ。
そして、
読者の皆様。
前の記事で、
こんなことを書いた。
この先も、
弁護士とのメールのやり取りではヤキモキすることが何度かある。
はい。
来ました。
返事がない
翌日。
返事なし。
もう一日。
返事なし。
訴状は、
机の上にある。
そこには、
期限が書いてある。
出頭日もある。
答弁書も出さなければならないらしい。
僕にも、
弁護士が忙しいことくらいは分かる。
毎日、
僕だけを担当しているわけではない。
そもそも、
こういう訴状が届いた場合に、
僕が勝手に何かするより、
弁護士に確認してから動いた方がいいことも、
なんとなく分かっている。
だから、
待つ。
でも。
期限があるんだ。
僕は今、
のんびりしていていいのか?
それとも、
結構急いだ方がいいのか?
それすら分からない。
早く私を安心させてくれ。
そしてGoogleへ
弁護士からの返事を待ちながら、
結局、
Googleを開いた。
検索する。
「弁護士 受任後 訴訟」
検索する。
「個人再生 訴えられた」
検索する。
「答弁書 だれがやる」
検索する。
「出頭できない」
次から次へと、
知らない言葉を調べる。
一番知りたかったのは、
単純だった。
これ、僕がやるの?
答弁書は、
自分で書くのか。
裁判所には、
自分で行くのか。
弁護士がやってくれるのか。
このまま何もしなかったら、
どうなるのか。
Googleを読んでも、
僕の事件について答えてくれるわけではない。
結局、
最後に必要なのは、
弁護士からの返事である。
検索する。
不安になる。
別の記事を読む。
少し安心する。
また別の記事を読む。
また不安になる。
インターネット、
感情が安定しない。
4日後、もう一度メールする
2月14日。
最初にメールを送ってから、
数日経った。
さすがに、
もう一度連絡した。
訴状について、
どう対応すればいいのか。
答弁書はどうすればいいのか。
すると、
返事が来た。
「すみません、訴状などは一式送ってください。」
以上。
短い。
こちらはこの数日、
出頭するのか。
仕事は休めるのか。
答弁書は自分で書くのか。
期限に間に合うのか。
このままどうなってしまうのか。
頭の中で、
いろいろなことがグルグルしている。
対して、
弁護士から来たのは、
「一式送ってください。」
である。
僕の焦りと、
弁護士のメールの温度差が、
すごい。
ただ、
何をすればいいのかは分かった。
届いたものを、
全部送ればいいらしい。
そこで僕は、
同封されていた答弁書についても確認した。
何も書かず、
そのまま送って大丈夫なのか。
返事は、
「はい、こちらで出すので大丈夫です。」
また、
短い。
でも今度は、
その短さがありがたかった。
こちらで出す。
大丈夫。
大丈夫らしい。
この言葉を、
4日前から待っていた。
※これは僕が依頼していた弁護士から、僕の事件について受けた指示です。訴状や答弁書への対応はケースによって異なるため、届いた書類を自己判断で放置してよいという意味ではありません。
訴状、一式発送
その日のうちに、
届いた書類をまとめた。
訴状。
呼出状。
答弁書。
その他、
封筒に入っていたもの。
一式。
レターパックへ入れて、
法律事務所へ送った。
数日前まで、
テーブルの上で異様な存在感を放っていた書類が、
今度は弁護士のところへ向かっていく。
行ってらっしゃい。
二度と帰ってくるな。
もちろん、
そんなわけにはいかない。
裁判は、
まだ終わっていない。
ところで、住所
それから少しして、
弁護士から連絡があった。
訴状に書かれている住所と、
事務所で把握していた住所が違う。
どういうことか、
という確認だった。
あれ。
同居したって、メールしたぞ。
前の記事で、
同居を始めたことを弁護士へ伝えた。
返信はなかった。
そのときの僕は、
「まあ、見てはいるだろう」
と思っていた。
見てなかったっぽい。
もちろん、
単純に確認が必要だっただけかもしれない。
ただ、
改めて引っ越したことと、
現在の状況を説明した。
新しい住民票も必要になり、
後日提出した。
大事な情報は、
「送ったから大丈夫」
ではなく、
ちゃんと伝わっているか確認する必要がある。
匿名男、
ひとつ学ぶ。
裁判所には、弁護士が行くらしい
さらに3月。
弁護士から、
裁判の日程について連絡が来た。
口頭弁論の期日。
あの書類を見た瞬間から、
ずっと気になっていたやつである。
そして、
メールにはこう書かれていた。
期日は事務所で対応するため、僕が出廷する必要はない。
……。
もっと早く知りたかった。
いや、
教えてもらったのでいい。
とにかく、
仕事を休んで裁判所へ行き、
法廷で何かをしゃべる、
という未来はひとまず消えた。
答弁書も、
弁護士が対応する。
裁判所も、
弁護士が対応する。
なるほど。
弁護士に頼んでてよかった。
これは、
かなり本気で思った。
弁護士に頼んでも、訴状は来る
僕はどこかで、
弁護士に個人再生をお願いした時点で、
債権者とのやり取りは全部止まって、
あとは申立てまで静かに進んでいくものだと思っていた。
実際、
請求は止まった。
返済も止まった。
生活も落ち着いた。
だから、
完全に油断していた。
でも、
弁護士へ依頼したからといって、
訴訟そのものが絶対に起きないわけではなかった。
僕の場合、
実際に訴えられた。
ただ、
それは、
「弁護士に依頼した意味がなかった」
という話でもない。
訴状が届いたとき、
僕一人だったら、
答弁書の時点で完全に止まっていたと思う。
何を書くのか。
どこへ出すのか。
裁判所へ行くのか。
仕事はどうするのか。
全部分からない。
でも、
弁護士へ送れば、
対応してもらえる。
それが分かっただけでも、
かなり安心した。
というわけで。
訴状は届いた。
被告にもなった。
でも、
弁護士が対応してくれる。
大丈夫そうである。
あとは、
弁護士費用を払い終えて、
個人再生を申立てる。
今度こそ、
普通に進むだろう。
――と思っていた。