個人再生をする。

そこまでは決めた。

次の問題は、

誰にお願いするか。

最初に考えた有名な法律事務所は、

パートナーの、

「広告をたくさん出しているところって、なんか胡散臭くない?」

という、

完全なる偏見

によって候補から外れた。

もちろん僕にも、

「いや、この事務所は絶対に信頼できる」

と反論できるだけの知識はない。

なので、

またGoogleで探した。

そして、

一つの法律事務所を見つけた。

安い。安すぎる。

個人再生の費用を調べていると、

法律事務所によって結構違う。

そんな中で見つけたその事務所は、

明らかに安かった。

他と比べても安い。

安い。

ありがたい。

僕には金がない。

完璧である。

……とはならなかった。

むしろ、

怪しい。

借金に困っている人を集めて、

実際に相談したら、

「あなたの場合はこちらの費用も必要ですね」

とか言われるのではないか。

サイトに書いてある金額は入口だけで、

最終的には全然違う金額になるのではないか。

というか、

この弁護士、本当にいるのか。

疑った僕は、

弁護士の名前を検索した。

事務所についても検索した。

それでも足りず、

日弁連のサイトまで見に行った。

名前を検索する。

出てくる。

ちゃんと弁護士として登録されている。

いた。

弁護士、

実在確認。

何をやっているんだ僕は。

でも、

サイトの料金が安すぎる。

まだ完全には信用していない。

問い合わせた。返事がない。

とりあえず、

WEBサイトの問い合わせフォームから連絡してみた。

返事を待つ。

来ない。

翌日。

来ない。

数日待つ。

来ない。

ただでさえ、

「安すぎない?」

から入った法律事務所である。

そこに、

問い合わせフォームから問い合わせたのに返事がない

が追加された。

不安材料として、

なかなか強い。

というか。

WEBサイトに問い合わせフォームを作っておいて、見ないとは何事だ。

日弁連で弁護士の実在まで確認したのに、

今度は、

「本当にこの法律事務所、大丈夫か?」

になってきた。

さらに、

「事務所、ちゃんと営業してる?」

くらいまで疑い始めた。

結局、

電話をかけてみた。

すると、

出た。

普通に出た。

法律事務所、

ちゃんと営業していた。

そのまま相談の予約も取れた。

なんだ。

普通じゃないか。

ただ、

この先も、

弁護士とのメールのやり取りではヤキモキすることが何度かある。

それは、

もう少し先の話である。

サイトの情報が本当なら、契約する

相談へ行く前に、

僕の中では一つ決めていた。

サイトに書いてあることが本当なら、

その場でお願いする。

逆に、

話を聞いて違う費用が出てきたり、

怪しいと思ったら帰る。

パートナーにも、

「弁護士と会って、サイトの情報が間違ってなかったら契約してくる!」

と伝えた。

予約のときには、

その日に契約する可能性があるなら印鑑を持ってくるよう言われた。

クレジットカードも持参する。

印鑑をバッグへ。

カードは、

いつもどおり財布の中。

2025年9月。

僕は初めて、

法律事務所へ向かった。

初めての法律事務所

法律事務所なんて、

それまでの人生で縁がなかった。

弁護士に会ったこともない。

事務所は、

都内の大きな繁華街から少し入った路地にある、

小さなビルに入っていた。

特別怪しい建物というわけではない。

むしろ、

「こんな都心に事務所を構えられるんだから、やっぱり弁護士ってすごいな」

とか考えていた。

見るところがそこなのか。

受付を済ませ、

部屋へ案内された。

まず、

借金の状況を書く。

どこから借りているのか。

いくら残っているのか。

いつ頃からなのか。

スマホで確認しながら、

一つずつ書いていった。

そして改めて思う。

こんなに借りてたのか。

もちろん知っている。

僕の借金だから。

でも、

一覧にすると改めてすごい。

そして僕は、

どうでもいいことまで考え始める。

これを弁護士が見るのか。

頭のいい人なんだろうな。

「なんでこんな借り方したんだ」

とか思われるのかな。

恥ずかしいな。

何をしに来たんだ。

それを整理してもらうために来たのである。

弁護士からしたら、

借金を抱えた人が相談に来るのは、

たぶん珍しいことではない。

僕だけが、

勝手に自意識過剰になっている。

弁護士が来た

しばらくして、

弁護士が入ってきた。

WEBサイトに写真は載っていた。

実際に会ってみると、

写真で見た印象より少し年上に感じた。

50代くらいだろうか。

恰幅のいい男性だった。

話し方は落ち着いている。

淡々としている。

怖い感じはなかった。

僕が書いた内容を確認しながら、

個人再生について説明を受けた。

どういう手続きなのか。

今後どう進んでいくのか。

費用はいくらなのか。

契約書を見る。

説明を聞く。

サイトで見た内容と比べる。

同じである。

追加料金が、

出てこない。

あれ。

本当に、この金額なんですか

むしろ拍子抜けした。

とはいえ、

ここまで疑って来たので、

一応確認する。

細く、

恐る恐る聞いた。

「他と比べても、とても安いと思うんですが……」

「これ以上に費用が発生することはないんでしょうか」

弁護士は、

特に驚くでもなく、

淡々と説明した。

法律事務所へ支払う費用については、

いま説明した内容であること。

ただし、

僕の場合は東京地裁への申立てになるため、

原則として個人再生委員がつくこと。

そのため、

弁護士費用とは別に、

個人再生委員の費用が必要になること。

金額については、

一般的にはこれくらい、

という目安は教えてもらえた。

ただし、

弁護士が決める金額ではないため、

正確な金額までは確約できない。

そんな説明だった。

安い理由を熱弁するわけでもない。

今すぐ契約しろとも言わない。

別の商品も出てこない。

ただ、

事実だけを淡々と説明してくる。

そこでようやく、

「あ、本当にサイトに書いてある通りなんだ」

と思った。

※実際に必要となる費用は、法律事務所や手続きの内容などによって異なります。ここでは、僕が依頼した当時の体験を書いています。

「持ち帰って考えてもいいですよ」

説明が一通り終わると、

その場で契約する必要はなく、

一度持ち帰って考えてもいいと言われた。

でも、

僕はもう決めていた。

パートナーにも言ってきた。

サイトの情報が本当だったら契約する。

本当だった。

なら、

もう帰って考えることはない。

契約書に記入して、

印鑑を押した。

こうして、

僕の個人再生をお願いする弁護士が決まった。

長年抱えてきた約250万円の借金を、

初めて専門家に預けた瞬間だった。

少し安心した。

これで、

ようやく何かが動き始める。

そんな気持ちだったと思う。

ところが。

契約した直後。

弁護士が言った。

「財布からクレジットカードを出してください」

え。

クレジットカード、全員退場

財布からカードを出した。

それまで僕は、

お金が足りなくなると、

クレジットカードを使って生活していた。

給料が入る。

返済する。

現金がなくなる。

カードを使う。

翌月、

請求が来る。

また金がなくなる。

良くないことは、

もちろん分かっている。

だから個人再生をするのである。

でも、

頭では分かっていても、

カードは僕にとって、

「お金がなくなったときの最後の手段」

になっていた。

それを、

今から渡す。

ふと思った。

あれ。

本当にお金がなくなったら、どうするんだ。

カードを使うな。

そのために来ている。

正論である。

しかし、

昨日までカードで生活していた人間の頭は、

そんなにすぐ切り替わらない。

名残惜しい。

非常に名残惜しい。

しかし弁護士は、

そんな匿名男の感傷など知らない。

契約した。

カードを出す。

シュレッダー。

速い。

もっとこう、

「今日から新しい生活が始まります」

みたいな時間があるのかと思っていた。

ない。

カードは、

即退場である。

僕の財布から、

長年「足りない」を埋めてきたものが消えた。

もちろん、

借金はまだ約250万円ある。

個人再生の申立てもしていない。

裁判所にも行っていない。

何も終わっていない。

でも、

一つだけ確実に変わった。

もう、足りなくなってもカードでは埋められない。

2025年9月。

僕の個人再生は、

契約書に印鑑を押したところから始まり、

その直後、

クレジットカードを失うところから始まった。