訴状は、
弁護士へ送った。
答弁書も、
弁護士が対応する。
裁判の日も、
僕が出廷する必要はないと言われた。
なるほど。
だったら、
もう僕がやることはない。
弁護士に任せよう。
そう思った。
実際、
その後はまた、
静かになった。
裁判の日も、普通に仕事をしていた
3月。
弁護士から、
口頭弁論の日程を教えてもらった。
僕自身は出廷しなくていい。
事務所で対応する。
それを聞いて、
かなり安心した。
人生初の裁判。
本人、不参加。
そんなことができるのかと思ったが、
弁護士がそう言うなら、
そういうものなのだろう。
あとはお願いする。
僕は普通に仕事へ行き、
普通に生活した。
裁判の日が近づいても、
最初に訴状を見たときほど、
気にしなくなっていた。
弁護士がいる。
強い。
ところで、個人再生は?
ただ、
別のことが少し気になり始めていた。
弁護士費用の支払いが、
もう終わる。
契約したときには、
費用を払い終えたら、
個人再生の申立てを進めると聞いていた。
ということは。
そろそろ申立てでは?
個人再生について調べていると、
申立て後には、
積立のような支払いをする話も出てくる。
僕の場合は、
いつから始まるんだろう。
何か振込を忘れていたりしないだろうか。
3月末。
気になって、
弁護士へメールした。
個人再生の申立てや、
今後の支払いについて、
僕が何か忘れていることはないか。
送った。
返事は、
来なかった。
またである。
まあ、そのうち連絡が来るだろう
とはいえ、
訴状のときほどは焦っていなかった。
弁護士費用は払っている。
必要な資料も出した。
裁判も弁護士が対応している。
個人再生についても、
いずれ連絡が来るだろう。
たぶん。
この頃の僕は、
弁護士から返事が来ないことにも、
少し慣れてきていた。
慣れるものなのか。
とりあえず、
待った。
そして4月。
口頭弁論の日も過ぎた。
僕は、
特に何もしていない。
裁判がどうなったのかも、
よく分からない。
まあ、
弁護士がやってくれている。
そう思っていた。
4月30日、突然メールが来た
4月30日。
弁護士から、
メールが届いた。
開く。
判決書が届きました。
……。
いつの間に。
裁判があったことは知っている。
でも、
僕の感覚では、
「弁護士が裁判に対応している途中」
くらいだった。
それが、
もう判決。
裁判、終わってる。
こちらが何も知らない間に、
法廷では話が進み、
判決まで出て、
その判決書が弁護士事務所へ届いていた。
裁判というものが、
僕抜きでも、
ちゃんと進んでいる。
当たり前なのだろうが、
妙な感じだった。
しかし、
メールには、
「判決が出ました」
だけではなかった。
「口座残高を0円にしてください」
続けて書かれていたのは、
もっと怖い話だった。
判決が出たことで、
強制執行を受ける可能性がある。
そのため、
銀行口座の残高を、
0円にしておくように。
待って。
強制執行ってなんだ。
訴状の次に、
また強そうな四字熟語が出てきた。
しかも今度は、
口座を0円にしろと言っている。
数か月前。
僕は、
人生で初めて、
お金が残った状態で次の給料日を迎えた。
そして今。
その口座を0円にしろと言われている。
人生、
展開が早い。
どの口座を0円にするの?
分からなかったので、
翌日、
弁護士へ確認した。
給与が入る口座だけなのか。
それとも、
持っている銀行口座を全部なのか。
返事は、
全部。
全部らしい。
なるほど。
全銀行口座、0円。
言葉にすると、
なかなかの迫力である。
もちろん、
お金を捨てるわけではない。
弁護士の指示に従って、
必要な対応をする。
ただ、
画面上の残高だけを見ると、
きれいに、
ゼロ。
個人再生を始めて、
初めてお金が残るようになった匿名男。
再び、残高0円へ。
「勤務先は知られていますか?」
さらに、
弁護士から確認された。
その債権者は、
僕の勤務先を知っているか。
知っている。
借りるときに、
勤務先の情報は出している。
そのことを伝えた。
すると、
僕の頭の中で、
急に嫌な言葉がつながった。
判決。
↓
強制執行。
↓
勤務先を知っている。
↓
給与差押え?
やめて。
これは、
かなり怖かった。
お金を取られることも、
もちろん困る。
でも、
それ以上に嫌だったのは、
会社に借金のことが知られることだった。
これまで、
借金があることも、
個人再生を進めていることも、
会社には話していない。
普通に仕事をしている。
その職場へ、
いきなり給与の差押えに関する何かが届く。
そんな場面を想像した。
非常に嫌である。
ここまで静かだったのに
しかも、
このメール。
判決の話だけでは終わらなかった。
弁護士費用の支払いは終わった。
提出済みの資料も、
だいたい確認できている。
個人再生の申立ても、
早く進めたい。
そのため、
追加の資料を出してほしい。
給与の資料。
家計の記録。
銀行口座の履歴。
その他、
いろいろ。
急に来た。
ここまで、
ほとんど連絡がなかった。
僕から、
「申立てはどうなっていますか」
と聞いても、
返事がなかった。
それが、
4月30日。
判決が出ました。
強制執行の可能性があります。
口座を0円にしてください。
勤務先は知られていますか。
申立てを急ぎます。
資料を出してください。
一気にことが動いてる。
少し待ってほしい。
こちらは、
まだ一個目の
「強制執行ってなんだ!」
を処理している途中である。
Google、再びフル稼働
当然、
調べた。
強制執行。
給与差押え。
銀行口座差押え。
判決。
確定。
個人再生。
申立て。
検索窓が、
急に物騒になった。
数か月前まで、
「個人再生 いつ申立て」
くらいだったのに、
今は、
「給与差押え」
である。
ステージが上がっている。
上がらなくていい。
何がいつ起きるのか。
会社に何が届くのか。
個人再生を申立てればどうなるのか。
とにかく、
いろいろ調べた。
でも、
調べれば調べるほど、
結局思う。
早く申立ててくれ。
待っていた申立てが、急に現実になる
それまでの僕にとって、
個人再生の申立ては、
「弁護士費用を払い終わったら、そのうち始まるもの」
だった。
少し先にある、
次のステップ。
でも、
判決が出て、
強制執行という言葉が登場した瞬間、
意味が変わった。
早く進んでほしい。
今すぐ進んでほしい。
昨日まで、
「そのうち連絡来るだろう」
だった匿名男。
急にせっかちになる。
そんな中、
法律事務所では、
個人再生の申立てを急いで進めることになった。
そして、
ここから、
僕の個人再生は、
それまでとは比べものにならない速さで動き始める。
新しい担当者と、
大量の資料とともに。